2020年01月26日
顔面神経麻痺:症例報告
患者:50代 男性 Iさん(仮)
主訴:左顔面部の麻痺症状
来院:R2年1月14日
症状:8日前、朝食中に口の左側が開きにくくなり食べたものがこぼれる症状が起こり、病院を受診した結果、CT検査では脳に異常はなく、左耳の検査も異常はなく、恐らくベル麻痺(末梢性麻痺)と診断を受ける。
病院での治療は1~4日間はステロイド治療、ビタミン剤を処方され服用したが、症状は変わらないため、ネットでいろいろ調べて鍼灸による治療を希望され、鍼灸治療は初めてだったが、このまま症状が続くことに不安を感じ、思い切って当院を受診された。
施術内容と経過
1月14日(1回目)
【問診】
今回のようなIさんのケースは、症状が突発性に起きたうえに、病院では完治は時間がかかるかもしれないというように話され、ご自身でも症状をネットで色々と調べ、情報も人によって見解が違うなどもあり、かなり不安を抱えられているように感じた。
今の現状で困っている事、不安なことなどあれば何でも話してくださいと伝え、問診を進めた。
顔面神経麻痺といっても、症状の程度も人によって様々で私自身どれぐらいで改善されるか分からないことを正直に話し、そのうえで発症からまだ8日間しか経っていないこと+早く治したい気持ち(前日が日曜日でお休みでしたが、4回着信履歴があり翌日一番に予約のお電話をいただいた)を感じたことに改善の希望があることを伝え施術に入った。
【所見】
麻痺症状として、
- 左目閉眼困難(両瞼を閉じようとした時)
- 左目閉眼不可(左瞼だけ閉じようとした時)
- 額のしわ寄せ左側はできない
- 左口角が少し下垂し左側は開けにくい
その他、肩から首、頭にかけて熱感が強く発赤し、右目に充血がみられ、足首から先は冷えている。(上実下虚、上熱下寒)
随伴症状として、慢性的な首肩凝り、腰痛、左耳:耳鳴り、難聴(5年前突発性難聴)。
脈は緊、弦、左関上:実、右関上:虚
お腹は、季肋部が左右とも硬く圧痛があり(特に右)、お臍の高さで側腹部にかけて張り、圧痛、くすぐったさがあり、腹直筋部に緊張がみられた。
背部は、中部胸椎~下部胸椎横に張り、緊張がみられた。
【施術】
腹部の緊張を取り、上半身に停滞した熱を下げ、熱の循環を改善させる目的で鍼灸施術を行った。
足に鍼、灸をし、腹部の緊張や圧痛が和らぐなど変化を共有しながら丁寧な施術を心掛けた。
【施術後】
主訴となる左顔面部の麻痺症状は自覚的にも他覚的にも大きな変化はなかったが、腹部の圧痛の変化や検査で動きやすくなる変化を実感していただき、「3回施術してみましょう。」そこで少しでも主訴の麻痺症状に良い変化があれば続けてみるよう話し合いお互い納得して取り組むことになった。
最後に灸点(ツボの印)を取り、自宅でできるようお灸をプレゼントして、できる時間があればと自宅灸を勧めてこの日の施術を終えた。
1月16日(2回目)
前回施術後から特に変化はないとのことで、口調、雰囲気からやや焦りがみられる。
前日に自宅でお灸をされたとのこと。
お灸をプレゼントして実際にやって来たという方ほど、改善されるように感じていて、あえて強くやってくださいとは言わず、言い方が悪いですが、その方の本気度を見ている側面もあります。
私の他覚的所見だが、口の下垂の感じが前回より和らいでいるように感じた。
施術は1回目同様、上半身に停滞した熱を下げ、熱の循環を改善させる目的で鍼灸施術を行った。
1月20日(3回目)
今日で約束していた3回目の施術、前回の施術後からどう変化したか、もし変化がみられなければ別のアプローチが必要になるかなど考え、私自身ずっと気になっていました。
まず来院された時、Iさんの雰囲気の変化を感じました。
Iさんの第一声、「なんか良くなった感じがある。」、前回の治療後から少し麻痺症状が和らいできたようで、顔を洗う時に水が入らなくなったとのこと。
その他にも、
- 少し弱いが瞬きができている
- 食事が食べやすくなった
- 口角下垂はほぼ分からない
- 額のしわ寄せ右に比べると弱いができる
- 右目の充血がない
など、所見にも変化がみられた。
Iさんのほっとした笑顔が印象的で、良い変化がみられたため施術をもう少し続けることになった。
1月25日(4回目)
明るい声でほとんど治った感じと話され、左顔面部の麻痺による日常生活での不都合もなく、口笛も吹けるとのこと。(ご本人の自覚的に9割くらい改善)
肩から首、頭にかけての熱症状も和らいでいる。
施術を行いながら、痛みや症状は身体からの大切なメッセージですねと話をして、今後はまた1週間後に予約を取られ、それまでに改善していたら、様子をみるという方向で進めていくこととなった。
2月1日(5回目)※追記(2月1日更新)
問診の時、「完璧に良くなった。」と笑顔で話され、日常生活での不都合なく過ごせているとのこと。
施術を終え、「しばらく様子をみてまた何かあればお願いします。こんなに早く良くなるとは自分でも思ってなかったです。本当にありがとうございました。」と感謝の言葉をいただいた。
昨日でお渡ししたお灸(50壮)を使い切られたようです。
Iさん、こちらこそ信じて来てくださりありがとうございました。
また何かあればいつでもお待ちしております。
【考察】
末梢性の顔面神経麻痺は、回復までに時間がかかることもあるといわれるが、今回のケースでは比較的早期に改善がみられた。
その背景には発症から8日間で施術に取り組めたことに加え、Iさんの積極的に良くなりたいという思いが行動に現れたことが大きかったと考えられる。
今回は私自身初めての顔面神経麻痺という症例で、試行錯誤するところがあったが自分自身の変化を感じた。
鍼灸施術の技術が変わったというより、患者さんとの関わり方が変わったように感じる。
今回のケースで一番に心掛けたことは、不安を抱かせないこと、余計なストレスを与えないこと。
具体的には、3日間という期間を決め、その中で私ができることをしようと、そして生活指導的なアドバイス(飲酒などの嗜好品を減らすなど)はせず、経過の一つの指標となるお写真も撮らず、Iさんが不安や疑問に思う事だけを私なりにお答えしました。
生活指導的なアドバイスをすることや経過の指標となるお写真を撮ることを否定しているわけではありません。
生活習慣を見直すことでより良い方向にいったり、経過のお写真を撮ることで変化を共有できたり、クライアントさんご本人の励みになるものだと思います。
今回は私とIさんの取り組みで結果的に症状が回復しましたが、症状が回復したこと自体は良かったですが、これで良かったのかは自問自答しています。
私が変わったことは、相手のせいにするという気持ちが湧かなくなった、全くそうかと言われると難しいところですが、そういう風に思うストレスがなくなっています。
これまで難しい症状で施術で良くならない時は相手にも原因があるという思いがありました。
自分がこうして欲しいという思いだけではなく、その人(患者様)をみて、生活の背景を思い浮かべたり、ご本人の気持ちに寄り添い、相手が求める施術を提供することが大切だと今そう感じています。
自分のできることに集中する。
今後も自分の力量を過信せず、できないことは素直に認め、患者さんが求めるものと私が提供できるものお互いの利益に繋がるような関係性が築けるよう心掛けていきたい。
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